最適に繋ぐ

Chapter 7: Neural Wiring Optimization
Cherniak, C., Mokhtarzada, Z., and Rodriguez-Esteban, R.
in Kaas (Ed) Evolutionary Neuroscience. 2009. 107-110

Evolutionary Neuroscience

Evolutionary Neuroscience

集積回路における ワイヤーの 最適化則 "Save Wire" は,脳にも 適用可能だが,計算論的に コストが たかい(NP 困難)
7.1 神経樹の最適化

  • ノードの 位置を 固定したときに 分岐を ゆるして それぞれを 結合するとする:最適の 樹は Steiner tree
    • 自然界における 樹形の 特徴として,幹は 枝分かれよりも コストが たかい
    • 幹と 枝の 直径の 関係は 流体力学における Wall-drag 効果に したがう
  • 実際の ニューロンの えだわかれも 最適な ものから 5% 程度の 逸脱 (Cherniak et al., 1999)

7.2 要素の位置の最適化

  • 微小回路設計における もう ひとつの 重要な 問題が 個々の 要素の 配置の 最適化
    • さまざまな 階層に 適用可能な 問題
  • 脳が 体軸の 前部に あるのも その ひとつ
  • n 個の 要素の システムに おいては n! とおりの レイアウトが ありうる
    • C Elegance における 39916800 とおりの 可能な レイアウトの うちで 実際の 接続は 最適解であった (Cherniak, 1994a)
    • 遺伝アルゴリズムでも Spring force-directed アルゴリズムでも 生成可能だった (Cherniak, et al., 2002)
  • 霊長類の 皮質野の 配置にも 適用可能
    • 近接接続則:a と b が接続しているならば,a と b は近接している
    • マカクの 17 の 視覚野は 可能な 接続の うち トップ 10^7 (Cherniak et al., 2004) *1
  • ローカルな 最適化は グローバルな 最適化との トレード・オフ
    • 素数が ふえていくほど,グローバルな 最適に ちかづく
  • 脳に おける 接続の 最適性は 他の 組織と くらべても 図抜けているようだ

7.3 最適化:メカニズムと機能的役割

  • 50 の要素を もつ ネットワークの ミニマル・ワイヤリングを かんがえるだけで,天文学的時間が 必要 (Cherniak, 1994b)
  • ひとつの 戦略としては 物理法則によって フリーな 近似解が えられるかも
    • 流体力学則に もとづく 分岐/Spring force-directed な 位置の 決定
    • 接続が 先か,要素の 位置決定が 先かは わからないが,すくなくとも 「接続→位置決定」最適化で 十分らしい
  • 「物理→最適化→神経解剖学」という 図式は,情報の ボトルネックである 遺伝子を 通じて,自己組織的な 複雑な 構造の 発生の 伝達を 可能にする 経済的な 方法
    • 非ゲノム的生得論「なんらかの 生得的で 複雑な 生物学的構造が DNA に エンコードされているのではなく,基本的な 物理的原理から 派生する」(Cherniak, 2005)

■コメント
チョムスキーが 環境でも 遺伝でもない 生得的な 「言語能力」の 最適な 設計みたいなことを いうときの ひとつの 基盤は このラインの 研究なのであるね.

*1:これ,可能な 接続が 膨大だから,最適に ちかい ほうなんだろうけれど,感覚が つかめないよね

脳機能イメージングにおける解剖学的記述の役割

やあやあ、みんなコメントくれてありがとう。結構な同意が得られてうれしいよ。同意得られたところをいくつか上げたあとで、議論のある点を論じるよ。まあこれらの記事がこれからのロードマップになってくれるとうれしいね。みんなが Passingham くんの言うとおり「解剖はつまらなくなんてない。大事なんだ」と思ってくれるとなによりだ。
「つまらん解剖を称賛しよう」という記事にみんなが突っ込みを入れて、それに返答した記事。

On the fundamental role of anatomy in functional imaging: Reply to commentaries on “In praise of tedious anatomy”
Devlin JT, Poldrack RA.
Neuroimage. 2007 Oct 1;37(4):1066-68

 
方法論の記述のガイドライン
「タライラッハ空間」とか「タライラッハ化」では一般的すぎてだめ。

  • どんな方法、テンプレートを使ったかしっかり書こう。
    • テンプレートによってだいぶ違いがあるよ

データベース化する際にも明示的な情報は不可欠

  • BrainMap project (Laird et al., 2005a)

タライラッハ空間を越えて:新たなスタンダード
タライラッハは確かに大きな役割を果たしたけど、今や MNI305 が事実上スタンダード

  • Toga and Thompson (2007) の言うように特定のグループごとの確率的アトラスがより正確で望ましいかも

非線形的変形がより正確に形を合わせることができ、個人間のばらつきも少ない(Van Essen and Dierker, 2007)

  • この正確さは諸刃の剣だけど。
    • 線形変形と非線形変形とを比較するとばらつく

細胞構築の役割
ここがいちばんやっかい
同意されているのは、もし機能イメージングで BA (Brodmann’s area) を記述しようとするなら、単にアトラスに従うだけでなく、他の何らかの基準に拠るべきだ

  • Amunts et al. (2007) によればマクロな構造は細胞構築の信頼できるガイドにはならない
  • Amunts らの確率的アトラスのアプローチが現時点ではベストかも。
    • 高磁場構造画像もいいね (Augustinack et al., 2005)

しかし、そもそも細胞構築って機能構成を見るのに役に立つの?

  • Amunts et al. (2007) は細胞構築は脳の機能を強く反映していると主張
  • けどシトクローム・オキシダーゼの blob と interblob が BA 17 内で機能的に分離しているよね (Livingstone and Hubel, 1984)
  • Passingham (2007) は細胞構築は結合的アナトミーの点から相同部位を確立するのに有効だと考えている。
  • 一方、Orban and Vanduffel (2007) はサルの fMRI がヒトの fMRI とサルの細胞構築とをリンクさせる上で重要だと考えている。

総合すると BA の記述はいらないし、望ましくないよ

  • 直截的な証拠がない限り BA は説得力ない
  • BA をもとに単純に先行研究と比較したらいかん
    • 比較がただしくなけりゃ意味がない
  • でも活動を多因子で記述するのは意味がある
    • 活動部位の解剖学的な記述 (皮質や皮質下の目印をもとに) は有効
    • 付加的な解剖学的、帰納的データがあればそれも書こうね

集団研究 vs. 個人研究
機能イメージングの研究はだいたいグループ研究だよね

  • 個人は random effect として扱うことによって…
    • 集団に共通した性質を見つける
    • 集団内での個人差を特徴づける
  • さらに個人の解析で出てくる偽陽性に対するセーフガードにもなる

グループ解析の結果はデータベース化にも大きな役割を果たす(e.g., Laird et al., 2005a; Nielsen et al., 2004; Van Horn et al., 2001)
データベース化は新たな発見をもたらすかも

グループ解析も大事だけど一部では個人の機能-解剖の細かい分析も増えてきたよ (Fadiga, 2007; Orban and Vanduffel, 2007; Tzourio-Mazoyer et al., 2007)

  • 低次の視覚研究ではこれが む し ろ 規範
  • こういった場合、活動領域は座標ではなく、機能的ローカライザーを使って定義される
    • V1 は網膜部位再現とか紡錘状回の顔選択領域
  • 高磁場の fMRI が増えたら、個人研究ももっと増えるかもね

結論
まあ、だいたいみんなの突っ込みには同意するよ
解剖はただの場所じゃない、ってのも重要だ

  • 解剖は脳機能の多くの側面にかかわっている (e.g., Leonard et al., 2006)

解剖のきちんとしたレポートはすげー重要なのに、いまいち正当に評価されていないんだよな
もっとみんな考えてよ

皮質ネットワークの可塑性と特異性について。

脳は機能的領野に区分される。それを定めるのは細胞のタイプ、分子の発現パターン、微小回路、そして長距離の結合である。特定の構造、同一性は入力によってのみならず、固有の神経ネットワークによっても規定されるのである。

Plasticity and specificity of cortical processing networks.
Majewska AK, Sur M.
Trends Neurosci. 2006 Jun;29(6):323-9. Epub 2006 May 11.

■後シナプスにおける形態変化
スパインの変化が機能の変化に先行し基盤となりうる。
スパインの増大は発達期では頻繁に見られるが、成人では制限される。
アクソンの変化はより長期の刺激と新たなタンパク合成が必要となる。
■皮質の再結線
聴覚皮質に視床の視覚領域からのニューロンを接続すると通常の聴覚皮質とは異なり、視覚皮質様のパッチ状の結合が形成される(Sharma et al., 2000. Nature)。
方位選択性は方位軸に沿って配列された視床からのフィードフォワードから生まれる。

  • 視覚世界の局所的に相関した方位構造を反映している(逆相関法:Dragoi et al., 2002. Nat Neurosci)。
  • 視床からのフィードフォワードな入力がラフなチューニングを設定し、局所的な結合がシャープで洗練されたチューニングを形成する(モデル研究:Sommers et al., 1995. J Neurosci)
  • 活動は皮質の結合の再編に協力な役割を果たすとはいえ、足場となる内因的な結合との協働が重要。

■感想
おもしろいなあ。世界の 構造が 脳の 構造に 反映されていく わけだけれど かといって 単純な うつしかがみでも ないんだよね。で 内因的な ものも もとを ただせば 進化の 過程で 獲得されてきた 構造 (もちろん 物理・化学的制約の もとで) な わけで。その せめぎあい。

意味の皮質ネットワーク:N400 を (脱) 構築する。

Poeppel 先生、このごろ おさかんです。Hickok と 提唱した 言語の 腹側・背側モデルも あちこちで つかわれて 評判よいようですし。

A cortical network for semantics: (de)constructing the N400
Lau EF, Phillips C, Poeppel D.
Nat Rev Neurosci. 2008 Dec;9(12):920-933.

■N400 とは
N400 というのは 文脈からの 意味の 逸脱に 反応する 言語特異的な 成分として Kutas と Hillyard が 1980 年に 発見した 事象関連電位 (ERP) の 成分なのですが 、その 解釈は 諸説 いりみだれている わけです。
おもに ふたつの 解釈が あって、ひとつは 文脈への 統合 のコストに かかわるると する かんがえかた。もう ひとつは 語彙 そのものに 反応する という かんがえかた。【追記】で、たんに 波形を みているだけでは これらの 解釈の 区別は できない わけです。
■意味処理への解剖学的アプローチ
そこで この ふたつの 解釈を 検討するには ERP 成分 のソース (みなもと) の 解剖学的位置を はっきりと しる 必要が ある と 著者らは かんがえているようです。ぼくも 賛成。ERP 成分の ソースとしては 左半球の 側頭葉後部と 側頭葉前部、そして下前頭葉が あげられます。けっこう ちらばるんですよね。
まあ、ここからは かれらの 言語の 解剖学的モデル に のせれば よいわけで。つまり ふたつの 解釈は それぞれ ことなる ソースに 対応づけられる わけです。側頭葉後部は 語彙に、側頭葉前部から 前頭葉の 活動は 文脈への 統合へ。
う〜ん、妥当と いえば 妥当ですが そんなに 興奮する ほどの ものでは ないですねー。
ま、すくなくとも ERP で N400 が でただけで 言語の 詳細な メカニズムを 議論するのは ちょっと むりかな、っていうのは いつも おもいますよ。しっかり よんだら また なにか かこうかな。
こっちの ブログは ひとのめが ないけん、基本、方言、ちがった、放言たい。

fMRI 順応法でヒトの下頭頂葉のミラー・ニューロンが明らかに。

ずいぶん、ひさしぶりの 更新 ですねー。もちろん、論文 よんで いなかった わけでは ないですよー。

fMRI adaptation reveals mirror neurons in human inferior parietal cortex.
Chong TT, Cunnington R, Williams MA, Kanwisher N, Mattingley JB.
Curr Biol. 2008 Oct 28;18(20):1576-80.

いろいろ ごちゃごちゃ 文句 いって(http://d.hatena.ne.jp/shokou5/20080418/1208497637)、自分でも うるさいなーと おもっていたのですが、ついにマトモな 結果が でましたね。Adaptation method でさぐる、というのは Dinstein et al (2007) "Brain areas selective for both observed and executed movements" J. Neurophysiol と おなじなんですが、なにか 独自の くふうが あるんでしょうか。成功の 秘訣は 運動の 種類を ふやしたこと みたいですよ。
論理としては、もし 運動と 観察 両方に おなじように 反応する 神経集団が あるとすれば、特定の 運動の あとに 同一の 運動の映像を 観察を したときに (逆もあり)、神経の 順応によって BOLD 信号が 減少するはずだ、というものですね。
で、順応が 観察されたのは 右の IPL だそうです。左の IFG に 出なくて がっかりな かたも いらっしゃるでしょうか。STS でも ありませんね。
まあ、BOLD 信号で「ニューロン」とまで 結論づけるのは ちょっと いさみあしな きも しますが、あとは、やっぱり、メカニズムの 解明ですね。

稀な構造的変異によって統合失調症における神経発達経路の複数の遺伝子の混乱が生じる

Rare structural variants disrupt multiple genes in neurodevelopmental pathways in schizophrenia.
Walsh T, McClellan JM, McCarthy SE, Addington AM, Pierce SB, Cooper GM, Nord AS, Kusenda M, Malhotra D, Bhandari A, Stray SM, Rippey CF, Roccanova P, Makarov V, Lakshmi B, Findling RL, Sikich L, Stromberg T, Merriman B, Gogtay N, Butler P, Eckstrand K, Noory L, Gochman P, Long R, Chen Z, Davis S, Baker C, Eichler EE, Meltzer PS, Nelson SF, Singleton AB, Lee MK, Rapoport JL, King MC, Sebat J
Science. 2008 Apr 25;320(5875):539-43

Schizophrenia is a devastating neurodevelopmental disorder whose genetic influences remain elusive. We hypothesize that individually rare structural variants contribute to the illness. Microdeletions and microduplications >100 kilobases were identified by microarray comparative genomic hybridization of genomic DNA from 150 individuals with schizophrenia and 268 ancestry-matched controls. All variants were validated by high-resolution platforms. Novel deletions and duplications of genes were present in 5% of controls versus 15% of cases and 20% of young-onset cases, both highly significant differences. The association was independently replicated in patients with childhood-onset schizophrenia as compared with their parents. Mutations in cases disrupted genes disproportionately from signaling networks controlling neurodevelopment, including neuregulin and glutamate pathways. These results suggest that multiple, individually rare mutations altering genes in neurodevelopmental pathways contribute to schizophrenia.

発話処理における大規模なシンファイア・チェイン

Spatiotemporal Signatures Of Large-Scale Synfire Chains for Speech Processing as Revealed by MEG.
Pulvermüller F, Shtyrov Y.
Cereb Cortex. 2008 May 5 [Epub ahead of print]

We report a new brain signature of memory trace activation in the human brain revealed by magnetoencephalography and distributed source localization. Spatiotemporal patterns of cortical activation can be picked up in the time course of source images underlying magnetic brain responses to speech and noise stimuli, especially the generators of the magnetic mismatch negativity. We found that acoustic signals perceived as speech elicited a well-defined spatiotemporal pattern of sequential activation of superior-temporal and inferior-frontal cortex, whereas the same identical stimuli, when perceived as noise, did not elicit temporally structured activation. Strength of local sources constituting large-scale spatiotemporal patterns reflected additional lexical and syntactic features of speech. Morphological processing of the critical sound as verb inflection led to particularly pronounced early left inferior-frontal activation, whereas the same sound functioning as inflectional affix of a noun activated superior-temporal cortex more strongly. We conclude that precisely timed spatiotemporal patterns involving specific cortical areas may represent a brain code of memory circuit activation. These spatiotemporal patterns are best explained in terms of synfire mechanisms linking neuronal populations in different cortical areas. The large-scale synfire chains appear to reflect the processing of stimuli together with the context-dependent perceptual and cognitive information bound to them.